研究来歴とメッセージ
朝鮮語(圏)の研究をしています―そう聞くと、どんなことを思い浮かべるでしょうか。ある人は北朝鮮、またある人は朝鮮半島を連想するかもしれませんね。しかし、私が興味を持っている地域は、これよりはるかに広い範囲に及んでいます。実は、SFC(学部)の言語コミュニケーション科目の名称にもなっている「朝鮮語」というのは、「朝鮮民族の言語」という意味で、朝鮮民族が一定数、居住している国や地域であれば、そこに朝鮮語圏は存在するのです。ですから、例えば、朝鮮半島に限らず、中国やアメリカ、旧ソ連地域、そして我々が住んでいる日本なども全て私のフィールドとなりえます。
では、一体どのような方法で研究を行なうのでしょうか。それは、やはりフィールドワークをおいて有効な方法はそう多くないと思います。言語の根源的な存在様式が音声であるだけに、ある言語(圏)について知ろうとするときに、その「話者」の存在を切り捨てて語ることは不可能だと言えるでしょう。だから、どの地域であれ、朝鮮語を使って暮らす「普通の」人たちと直に触れ合いながら、彼らの思いや葛藤に少しでも近づくべく、フィールドワークを行なっています。
具体的な研究としては、2014年以前は、韓国・朝鮮語の相互作用構築のメカニズム研究を行なっていましたが、2014年以降は、中国・吉林省や遼寧省に居住する朝鮮族の民族語の使用実態と意識を継続して研究しています。また、2016年には、韓国に在住する朝鮮族の越境移動と文化接触の現状について調査したりもしました。いずれの研究においても共通しているのは、質的研究(インタビューなど)と量的研究(談話採録、アンケートなど)を可能な限り融合させるという方法を採用しているということであり、数次の調査で得られた知見を相互補完的に分析することでより多角的な記述を目指しています。 朝鮮語に限らず、言語を1つの媒介としてより広い世界を見てみたいという人は、是非このプロジェクトに参加してみてください。時にはフィールドワークの楽しさやつらさを共有しながら、一緒に楽しく研究を進めていきましょう!
専門と関心の領域
- 朝鮮語を媒介としたコミュニケーションの諸相
- 世界におけるコリアンの言語使用とアイデンティティ
- 移動、接触による朝鮮語使用の変容過程
- 韓国における多言語多文化政策
- 日本/世界における朝鮮語政策、朝鮮語教育の方向性
- 言語をとりまく(朝鮮半島の)南北差
研究と教育のキーワード
- 移動する朝鮮民族(KOREAN=韓国人からの脱却)
- 非優勢言語としての朝鮮語(絶滅の危機に瀕した方言変種の記録も)
- 朝鮮語を通じて広い世界を見る(世界は広い。新規開拓の分野は未知数)
- フィールドワークを通じて、現地の人々の息遣いに触れる(何よりもこれが醍醐味!)
主要研究業績
- 「日本語と韓国語の談話におけるいわゆる「中途終了発話文」の出現とその機能」『社会言語科学』第15巻1号、社会言語学科学会、2012年、pp.89-101
- 「日本語話者と韓国語話者の「質問」発話生成に対する意識―談話データとの比較から―」『待遇コミュニケーション研究』第12号、待遇コミュニケーション学会、2015年、pp.69-85
- 「日本語と朝鮮語の談話における発話連鎖―「質問」と「応答」の連鎖を中心に―」『朝鮮学報』第235輯、朝鮮学会、2015年、pp.1-35
- 「遼寧省地域朝鮮語話者の言語意識―瀋陽市朝鮮族中学における質問紙調査の結果から―」『学苑』第905号、昭和女子大学、2016年、pp.32-40
- 「遼寧省地域朝鮮語における友人談話の発話形式―基層方言との関係という観点から―」『朝鮮学報』第241輯、朝鮮学会、2016年